瞳の中に

彼女の瞳に映るのはいつだって自分でありたい。
横に座って微笑みながら空を見上げる彼女をそっと覗きこんだ。
今、彼女は何を見ているのだろう。

「亜貴ちゃん?」

呼びかけたが返事がない。俺は目線を追いかけた。
彼女の見ているものがどうしようもなく気になって。
また、彼女が笑う。胸の奥がちくり、と痛んだ。
彼女が見ているのは星ではなくて、もっと遠いものであるような気がした。
そこにきっと、俺はいない。
また、胸に痛みを感じた。さっきよりも、はっきりと。
俺は彼女が時々、空を見上げて何かを呟くのを知っている。
二人きりの帰り道とか、教室で話をしているときだとか。
何かを懐かしむような表情で、笑う。それがとても魅力的で。
同時に、俺が存在しない事がすごく切なくて。
この気持ちはなんだろう。
俺のことを考えてくれないのが寂しい?悲しい?
もしかして、嫉妬……?
だんだんと、彼女の笑みに苛立ちを覚え始めた。
ねぇ、そんなに君は何を見つめているの?

「亜貴ちゃん!」

思わず出した大声に、彼女は驚いた様子で振り返った。はっとして口をつぐむ。

「葛ちゃん?どうしたの?」

そう言いながらにっこりと笑った彼女の顔をみて、さらに大きな何かが俺の胸を貫いた。
さっきの顔じゃない。俺がほしかった笑顔はそんなのじゃない。
どうすればいいのか分からなくなって、俺は彼女を引き寄せだきしめた。
二人一緒に草原に倒れこむ。彼女が何か言ったがそんなことはどうでもよかった。
ただ、抱きしめたい。抱きしめて、俺で彼女をいっぱいにしたい。
それだけだった。

今、この瞬間だけでいい。

「俺だけを見て。他は何も考えないで。」

赤くなった彼女の耳元でそっと、囁いた。








「……あのー、内沼?俺は惚気を聞かされるために呼びだされたのか?」

「そうだよ?」

「なんで?!何のために?!」

「え、だってノリちゃんが聞きたいかと思って。」

「別に聞きたくないから!!っつーか人のノロケ聞きたいやつとかいないから!!」

「えー。あ、もしかしてひがんでんの?」

「ち、違うわ!!」

「あ、ちょっとノリちゃん、大声だしすぎ。ここ喫茶店の中だよ?」

「お前に言われたくないわ!…ったく、話終わったなら俺はもう帰るぞ。」

「えー、久しぶりに会ったんだからもっと遊ぼうよー。」

「でもお前、依藤さんと約束してるんだろ?さっきからあそこのベンチに座ってるけど。」

「え、マジで?!ごめんノリちゃん。俺、行ってくる。また今度遊ぼう!」

「あぁ、今度な…って聞こえてないよな。……そーだよ、ひがんでんだよ、悪いか。
あーあ、忘れたはずなのにな、畜生。……俺も、帰るとするか。」




+End+





+一言コメント+
なんだかいろいろとアレですね、ナイ君不憫……笑
因みに亜貴ちゃんはメルディシアを見つめているのです。ホントです。







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