PanicPalette二周年記念企画milkyhoney参加作品



「ねぇ、君のこと、好きなんだけど」


無意識の恋のゆくえ





思わず草陰に隠れてしまったが、俺はこれからどうすればいいんだろうか。
右手に2つ、左手に1つ、かき氷のカップを持ったまま俺は身動きが取れなくなってしまった。
もう一度、おそるおそる草陰の向こうをのぞき見る。
そこにはいつもどおり涼しい顔をした白原と、耳まで真っ赤に染めた──姐さんが立っていた。

─落ち着け、俺。よく考えるんだ…!

そう自分に言い聞かせ、必死に状況を整理する。
今日、俺は姐さんと白原と三人で、近所のお祭りに来ていた。
そして、かき氷の出店を見つけて二人を残してかき氷を買いに行った。
かき氷を三つ抱えて戻ってくると、二人の姿が見当たらない。
あたりを見回してみると、通りから外れた茂みの中に、姐さんの淡い桃色の浴衣の袖がちらりと見えた。
それを追いかけて、俺は茂みの中へ入ったのだ。

─これは…どう見ても……あ、愛の告白……だよな。

自分で一瞬考えて、顔が赤くなる。
俺は大きく息を吸い込みもう一度、二人の様子を草陰からうかがった。覗きは趣味ではないが、仕方がない。何せ、姐さんの一大事だ。緊張のあまり、俺はゴクリと息をのんだ。
暗い林の中、慎重に二人の横顔が見て取れる距離まで移動する。

─…姐さん?!

てっきり怒りに震えて赤くなっているのかと思っていたが、姐さんの表情はどちらかというと緊張してこわばっていた。その様子に俺も思わず緊張する。
そうか、姐さんは白原のことが……。
チクリ。
何かが左胸を締め付けるような感覚に襲われた。
ほんの一瞬で、気にも留めないくらい、かすかな感覚。
その痛みの原因が何なのか気になったが、すぐに意識は姉さんの方へ向かった。

そうか、姉さんは白原を慕っていたのか。
だから今日、祭りに無理やりついてこようとした俺を赤い顔をして見ていたのか。
俺は二人のデートを邪魔してしまったわけだ。
姐さんのそばにいながら、その想いに気づくことができなかった自分が恥ずかしい。

─姐さん…申し訳ありません!

一度頭が地に着くほど深く下げ、茂みの向こうにいる二人へと視線を戻した。
過去の過ちにとらわれてはいけない。姐さんの気持ちに気付けなかったことをいつまで悔やんではいられなかった。
それに、その想いは今、成就するのだ。何も問題はないはずだ。
けれど、俺は左胸にもやもやと霧かかかっているような心持だ。なぜだろう。

─……!?

黙ってうつむいてしまった姐さんの頬に白原がゆっくりと手を添えようとしていた。
ビクリ、と姐さんの体がこわばるのがここからでもわかる。

─あの野郎…姐さんに何かしたら……

ただじゃおかねぇぞ。
そう毒づいて自分が体を乗り出していることに気がついた。慌てて飛び出しそうになった体を元にもどす。
姐さんは白原を慕っているんだ。別に俺が出て行って止める必要などない。
けれど、胸にかかった霧が晴れない。何故だ?
自分の体が落着きをなくしているがわかる。俺はいったい何を焦っているんだ?





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