織姫様の憂鬱

今日も、雨。


壁にもたれて外の雨音に耳を傾ける。
一昨日から降り出した雨は止む気配を見せず、むしろ激しさを増している様だ。雨音しか聞こえないほどの激しさで、休む間もなく降り続いている。
いつもならほとんど足を濡らさずに渡れる河も、この雨のせいで水かさがぐんと増えた。河にかかる赤い橋はその姿を全く認めることができない。

このままでは、今年もきっと、渡れない。

一年で一度だけ、貴方に会える特別な日。
あの赤い橋の上で過ごすあの一瞬が一年で一番の幸せな時間なのだ。
もう、三年も会えていない。

ひとつ、小さいため息をついてから窓の外を見た。そう遠くない場所で灯りがちらちらと揺れている。
向こう岸は、すぐそこ。

近いのに、遠い。
会いたいのに、会えない。

あと何度、この想いを胸にしまいこめば、幸せになれるのだろう?



考えて、やめた。
お父様が許してくれる日なんて、絶対に来ない。
来るはずのない未来に想いを馳せるなんてばかばかしい。

誰もいない窓の外に向かって、ゆっくりと笑顔つくる。

今日くらいは、笑っていよう。
たとえ貴方に会えなくても、輝きつづけよう。

だって、誰かが私たちの幸せを、天空に祈り続けてくれているんだもの。

窓から視線を戻し立ち上がった。うーんと大きく背筋を伸ばす。
私は織物の続きをするために、静かに部屋を後にした。

+END+






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