拗ねる理由、拒む理由


「ちょっとリーディ。いい加減に機嫌直してよ。ね、日も暮れてきたし、そろそろ帰ろう?」

「嫌だ。余はなにがなんでもここから動かぬ。」

リーディは公園の真ん中のベンチに深く腰掛け、頑として動こうとしない。
時刻は午後5時。ごねるリーディが通り過ぎる人々の目を惹いている。
さすがの亜貴も、もうこれ以上手のうちようがなかった。 ただ、リーディの機嫌が直るのを待つばかりだ。



ことの始まりは、何気ない女子高生たちの会話だった。
リーディと亜貴は、休日のデートは公園で一緒にお昼、と決めている。
今日も二人はいつものように公園のベンチで昼食を取っていた。 リーディが亜貴手作りのタマゴサンドにかぶりつこうとした、そのときだった。

「えぇー?!あんたまだキスもしてないわけぇー?」

「ありえなーい!もう付き合い始めて一ヶ月もたつじゃーん!」

ピタリ、と二人の動きが止まった。
その横を、にぎやかな女子高生たちが通り過ぎていく。
甲高く、よく響く声を振りまきながら彼女たちは不審な二人には気付かずに、公園の向こうへと消えていった。

リーディと亜貴はおそるおそる互いの顔を見合った。
二人が恋人同士となってから、もう半年は経とうとしている。
手をつなぐくらいはした事があるが、キスはまだない。
楽しいランチタイムが一瞬にしてどんよりと曇った空気に覆われてしまった。

「亜貴。」

リーディの呼びかけに亜貴は一瞬ビクリと身体を振るわせた。
ゆっくりとリーディの方を振り向く。
なるべく笑顔で、動揺を隠すように亜貴は言った。

「な…何?」

「余に、“きす”をしてくれ。」

「は…はぁ?そんなことできるわけないじゃない!」

リーディのトンデモ発言に思わず亜貴の声が大きくなる。

「なぜじゃ?亜貴と余はつきあっておるのだろう?なら“きす”をしてもおかしくは無いはずじゃ。」

「そ…そういう問題じゃないんだってば!とにかく、出来ない物は出来ないから!」

亜貴の必死の抗議にリーディは顔を不満げに歪ませた。
少し考えた後、こう言ったのだ。

「わかった。亜貴が“きす”をしてくれるまで、余はここを動かぬ。」



そして、今。

「亜貴、そろそろ“きす”とやらをしてくれる気になったか?」

にこり、と笑顔でリーディが言った。
亜貴は呆れてため息しかでてこない。
このままでは平行線を辿るだけで解決しないのは目に見えている。 第一、これ以上は疲労が溜まるばかりである。
亜貴は決意を固めた顔で、リーディを見つめた。
リーディに近づき、そっと囁く。

「わかった、キスをしてあげる。」

「本当か?!」

リーディの目がぱぁぁと輝いた。嬉しそうに亜貴に笑いかける。

「それならば早速…」

「だけど、ここではダメ。」

リーディの顔から急速に笑顔がひいていく。

「……何故じゃ?」

「恥ずかしいから。」

リーディの問いかけに亜貴は即答する。
シュンとうなだれるリーディに、亜貴はもう一度囁いた。
今度はとても、甘い声で。

「それに、ふたりきりになりたいし、ね。」






+End+



+一言コメント+
トンデモ発言リーディを書いてみたかった、ただそれだけです笑
なんだかんだでリーディって可愛いですよね!






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