約束




Scene.7

依藤、お願いだ。聞いてくれ。

今までお前の気持ちを知っていて、それをはぐらかすような事をして悪かった。
俺はずっと、お前の気持ちに甘えていたんだ。
教師と生徒、という関係を利用して自分の気持ちを隠していた。
気付かない振りをすれば、時間が解決してくれると思っていた。
だけど、それじゃあだめだった。
俺は、俺の中の想いがいつのまにか押さえきれないまでに大きくなっていることにやっと気がついた。
もう、後戻りはできない。
自分に、嘘がつけないところまで来てしまったんだ。
お前の笑顔をいつだって見ていたいと想うようになったし、お前が俺以外の男と楽しそうに話をしていると腹が立つ。
お前が泣いていれば、どうしていいかわからなくなる。もちろん、今だって。

だけど、俺は教師でお前は生徒だ。
悔しいけど、俺は今、お前にこの想いを伝える事は、できない。
お前を守るため、って格好よく言えたらいいんだけどな。
二人の今までの生活を守るために、教師と生徒の関係を保っていなくちゃいけない。
だから、俺はこの先の想いをお前に伝える事は、できない。

そのかわり、約束する。
もしも、この先、お前がずっと俺を忘れられないのなら。
俺も、お前をわすれない。
もしも、この先、お前が俺よりも愛する人を見つけ出したとしても。
俺は、お前をずっと愛してる。

お前が大人になるまで、ずっと待ってる。

約束する。




俺の手を振り払い、逃げようとする彼女を後ろから抱き込んだ。
最初はきつく。だんだんと力を緩めて。

そして、耳元で囁くように言葉を並べた。

俺の想いが、彼女に届けばいい。
そう願いながら。




Scene.8

涙が、とまらない。

嬉しくて。嬉しすぎて。

先生の手を振り払って逃げていたはずなのに、いつのまにか私の身体は先生の腕の中にいた。

やっぱり、先生はずるい。
そんなことを言われたら、もう逃げられないじゃない。
そんな風に言われたら、先生のこと、忘れられないじゃない。
ほら、やっぱりずるい。

先生の腕の温もりが優しく伝わってくる。
私は、逃げる事をやめた。
逃げる理由なんてなくなった。
先生は“約束”をしてくれた。私には、それだけで十分だから。
私はそっと涙をぬぐった。もう、涙は必要ない。
先生の腕にそっと自分の手を添えた。

「…私も、約束する。
いつか、先生の横に並べるくらいの大人になったら先生の恋人になってあげる。
だからそれまで、待ってて。」

先生を見上げ、笑顔を作った。
先生は、少しびっくりしたよな顔をして、それから微笑んだ。
そうか、俺が恋人にしてもらうのか。
そういってはにかんだ先生の顔は、いままでのどの笑顔よりも先生らしかった。




Scene.9


あの海の夜から、何度太陽はこの海に沈んでいったのだろうか。
そう思いながら俺は、赤い海に沈んでいく太陽をぼんやりと眺めていた。

今日は、彼女の二十歳の誕生日。
あの日の“約束”を果たしにここまできた。
本当は彼女の高校卒業と同時に約束を果たそうとしたが、彼女に断られてしまった。
まだ、大人じゃないから、といって。

「私の、二十歳の誕生日に、私を見つけ出して」

彼女は悪戯をした子どものような笑顔を残して、南青瀬を出て行った。



そして、今日。

多分、彼女はここにいる。




+End+



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